鋼管データ捏造
★本日の言いたいこと★
20年近く前に訪問した町工場の老職人を思い出した。
あの「職人芸」とプロフェッショナリズムは、
もう我が国にはないのか?
◎───────────────────────────
数日前に報じられたこのニュースは、ちょっとショックだった。
新日鉄子会社、所定の強度試験せず鋼管出荷
新日本製鉄の子会社「ニッタイ」(千葉県野田市)が、工場などで広く配管として使われる鋼管について、水漏れを調べる所定の強度試験をせずに日本工業規格(JIS)に定められた商品として出荷していたことが29日、分かった。経済産業省の登録認証機関は同日、工業標準化法(JIS法)に基づき同社に立ち入り検査し、品質管理体制などを調べる。鋼管の強度試験を巡っては、JFEスチールが国内外に出荷した約2400本について、試験をせずに試験データを捏造(ねつぞう)していたことが22日に発覚。経産省が厳重注意したばかり。
経産省やニッタイによると、同社では野田工場で試験記録のある2003年4月から08年3月の間、製造した鋼管約12万5300本のうち約12万 4900本について、内部に水を通して水漏れなどを調べるためのJIS規格の定める水圧試験を省略していたにもかかわらず、検査証明書に「合格」と記載していた。
(『日本経済新聞』平成20年5月29日付(夕刊)・社会面)
いまから20年ほど前、
私がまだ大学の先生になる前のことだったと思う。
川崎市のある町工場を訪問したことがある。
この記事は、20年ほど前のその町工場の風景を
思い出させてくれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
普通の住宅に見える工場。
土間を改造して、旋盤が3台ほど並んでいた。
働いていたのは、たったひとり、
その会社の社長である旋盤工だけだった。
何を作っているのか、と訊ねると、
「試験片を作っている」とのこと。
鉄鋼製品の耐久性を確認するために、
寸法をまったく同じにした鉄の切れ端を数個つくり、
それをたたいたり引っ張ったりして検査するのだが......
そういう試験片は、
寸法がまったく同じでなければならないので、
技術的に優れた企業でなければ作れないし、
さりとて、そうたくさん必要なわけでもないので、
世界の巨大鉄鋼メーカーが、
町工場の職人に頭を下げて作ってもらうのである。
私が川崎の町工場にお邪魔したときも、
某巨大鉄鋼メーカーの担当者の方が
試験片の製作を依頼しに来ていて、
まさに平身低頭の姿勢だったのを目の当たりにして、
大企業が必ずしも強いわけではないことを強烈に感じた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その町工場の社長さんである老旋盤工は、当時65歳くらい。
まさに、この人が日本の鉄鋼製品の品質を支えていた。
「世界に冠たる日本の鉄鋼業の一翼を担うのは名誉なこと」
と彼は控えめに言っていた。
ミクロン単位で性格に試験片を仕上げる「職人芸」。
それほど高い所得を得ているわけでもないが、
自らの役割を認識し、自分の仕事に誇りを持つプロ意識に、
深い感銘を受けたものだった。
わが国の国際競争力と、私たちが享受する豊かさの源泉は、
こういうところにあるのだ、と深く心に刻まれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しかし、彼の息子さんは、証券会社で働いているという。
時代はバブル景気の真っ只中。ちまちまモノを作るより、
グローバルな相場でバーンと大儲けするほうが、
その当時の若者には圧倒的に魅力的だったのだろう。
彼のような旋盤工が、この町工場がなくなってしまったら、
日本の鉄鋼業は、製造業はどうなるのだろうか?
この素朴な問いに、老旋盤工はこう答えた。
「まぁ、何とかなるんじゃないですか?」
しかし、冒頭のニュースに接したとき、
「何ともならなかったんじゃないの?」と思わざるを得ない。
相当の危機感を感じたニュースだった。
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